院長
松村 浩道

医療法人社団藍風会 江の島弁天クリニック 院長

1966年生まれ。日本医科大学卒業後、同大学附属病院麻酔科、関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)ペインクリニック科、氏家病院ペインクリニック科・精神科を経て現職。痛みの治療に携わり全人的な医療を志す過程で、精神医療、東洋医学、栄養療法、温泉医学、その他補完代替医療に通じ、現在はさまざまな不調をかかえる方に対して、心身相関を重視した包括的な診療を行なっている。テレビ・ラジオ・雑誌等に取り上げられること多数。著書に「対人関係のイライラは医学的に9割解消できる」(マイナビ新書)がある。

現在の仕事についた経緯は?

幼い頃の私は、近所の川や田んぼで日が暮れるまで遊ぶなど腕白に育つ一方で、折にふれて「人はどこから来てどこへいくのだろう」と考えたりするようなところがありました。私の父も医師でしたが、父の後ろ姿を見て育ち、自分も父のようになりたいとの憧れから、物心ついた頃には自然に医師を志していました。一方で、宇宙や哲学的なテーマに惹かれる自分にも気づいていましたが、小宇宙としての人間存在を追求したいという思いから、最終的にこの道を選びました。父は私が大学時代に亡くなってしまったので永遠の目標になってしまいましたが、そんな父のおかげで、医師となった今でも常に謙虚な気持ちで研鑽し続けることができるのだと思っています。

仕事へのこだわり

医師という仕事は、相手の気持ちを我がこととして共感できるか、ということが特に大切で、目の前の患者様が、自分自身や家族、親しい友人だったらどうするか、常にこうした視点での診療を心掛けています。また先の「最後まで諦めない医療」というモットーもここから来ています。さらに、物事を深く追求する姿勢と、幅広い知識をつけること、この両者のバランスが大切であると考えています。万人にとって有効な治療というものは残念ながらありません。通常の医療に加え、先端医療、補完代替医療など、提案できる選択肢が多いことは、取りも直さず可能性を提示することでもあります。その意味から、積極的に先端医療を取り入れる一方で、東洋医学的な「気」といった、不可視であっても再現性のあるものを大切にしています。

そう思えるようになったきっかけ

私は大東流合気柔術という武術をライフワークとして研鑽しており、現在は免許皆伝師範として後進の指導にも当たっていますが、先に述べた「物事を深く追求する姿勢」や「目には見えないが再現性のある現象」を大切にする視点は、私自身のこうした武術体験から来ています。近年、EBM(Evidence-based Medicine)という診療理念が重視されていますが、これは長年の臨床研究に基づいて統計学的に有効性が立証された治療法を選択することによって、より質の高い医療を提供することを目的としています。一方で、根拠となるデータが不十分な疾患や、治療が困難な病気においてはEBMを適応できないこともあり、そうした場合には、NBM(Narrative-based Medicine)を考慮する必要があります。「ナラティブ」とは「物語」という意味で、患者様が語る病気になった経緯はもちろん、人生観などを含めた一人ひとりの物語に耳を傾け、全人的なアプローチを目指す臨床手法です。EBMとNBMはそれぞれ相補的なものであり、どちらか一方に偏るべきではありません。WHO憲章の健康の定義・改正案においては、従来の生物心理社会モデル(biopsychosocial model)にspiritual を加えた新しい生命観を提唱していますが、当然ながら、「気」や「spirit 」のような目に見えない領域においては、NBMの視点が重要になります。当院では様々な先駆的な検査や治療を導入していますが、病からの回復には自然治癒力を高めることが不可欠で、そのためには文字通り自然の力が必要です。江の島という自然豊かな癒しの地を選んだのはこうした理由からです。

今後の目標

これまで述べたように、私は「最後まで諦めない医療を提供すること」をモットーの一つとしています。一方で、それとは矛盾するように思われるかもしれませんが、だからこそ、「予防医学」の大切さを痛感してもいます。しかし、我が国の保険診療制度は「治療医学」であり、あくまでも対象は病気の方です。そのためか、日本国民には予防医学の認識が乏しく、「病気になれば病院に行けばいい」と考えている方が大多数です。臨床の現場で患者様のお話を伺うと、「ある日突然、不運にも病気になってしまった」と考えていらっしゃる方が少なくありません。その背景には、健康と病気とは、それぞれ対局にある、という捉え方があるように思います。しかし実際には、健康と病気とは動的に繋がっており、病気の芽が少しずつ大きくなっていくわけです。因果応報という言葉は元々は仏教用語で、原因があって結果がある、その逆もまた然り、という意味ですが、そう考えると病気にも必ず原因があるということになります。具体的には、食や運動を含めた生活習慣の過ちや、物事をどう捉えるか、その捉え方に問題がある場合もあるでしょう。更に人間存在の本質を先の「spirit」まで含めて考えた場合、大自然との調和の仕方に病気の原因があるのかも知れません。いずれにしても、病気の原因に目を向けて、それに気づき是正することが大切で、この考え方に則る限り、予防医学と治療医学は分断されることはありません。私が最終的に実現したいのは、徹底的にEBMにこだわった先端医療と、自然豊かな環境の中で、NBMを基にした病因への気づきと是正を促す医療との融合です。それによって、国民一人ひとりの自立を促すことに少しでも貢献できればと思っています。